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連載・医療の豆知識「子宮頸がん予防ワクチン」

市川市医師会
  性感染対策委員長
  医師・秋山龍男

はじめに

 女性の命はもちろん、妊娠や出産の機会を奪うなど、婦人科領域のがんの中で乳がんに次いで発症率が高いといわれる子宮頸けいがん。しかし、定期的な検診や対応によっては、がんになる前に発見できることや、ワクチンの接種により発症の原因と考えられるヒトパピローマウイルス(以下HPV)の感染を予防できることなどが注目を集めています。子宮頚がんと予防ワクチンについて、10数回にわたって連載します。

「①子宮頸がんとは〜HPVワクチン理解のために」

 子宮は図のように、小型の洋ナシを逆さにしたような形をしています。上半分(赤ちゃんが育つ所)を子宮体部、下半分(出口)は円筒状になっているので子宮頸部と呼びます。体部、頸部それぞれのがんが出来ますが、体がんの方は通常は閉経後に発生するがんで、若い人にはほとんどありません。

 昨年末に、やっと認可されたHPVワクチンは、頸部の粘膜上皮に出来る子宮頸がんという悪性腫瘍の原因となることが明確になった16型、18型HPVに感染しないようにする「子宮頸がん予防ワクチン」です。

 日本では1年間に約1万5000人あまりの女性が子宮頸がんになり、3500人くらいが亡くなっています。女性特有のがんとしては乳がんに次いで多い悪性疾患です。

 また、是非知っておいていただきたいことですが、がんは高齢者の病気というイメージをお持ちと思いますが、子宮頸がんの発病のピークは今では30歳代に移っているのです。ちょうど出産・育児の世代で「マザーキラー」と呼ばれ、この傾向は世界共通です。

 理由として、女性のほとんどが一生に一度はHPVに感染(主に性感染)するといわれ、もしハイリスク型のHPVが自然治癒せずに持続感染状態で約10 年以上経過すると、ヒト側の細胞の変異とあいまって、1万人に1人以下の確率ですが発がんします。セックスの若年化、多様化、自由化、カジュアル化、ファッション化のためのHPV感染年齢の低下から計算すると、こんなことになるようです。

 しかし、「HPVは主として性感染するが、性感染症(いわゆる性病)ではない」のです。また、「HPV感染は子宮頸がん発症の必要条件であるが、十分条件ではない」等々、この子宮頸がん予防ワクチンには理解するのが難しい反面、知れば興味深いことがたくさんあるのです。また、これらのことが正しく普及すれば(詳しく言えば、このワクチンの効果が正しく統計的にはっきりするのは数十年後ですが)女性の子宮頸がんは制圧に近いことになるでしょう。公費負担が待たれるところです。

 次回は「ヒトパピローマウイルスとは?」を予定しています。
 (2010年5月22日号)TOP PAGE

「②ヒトパピローマウイルスとは」

 パピローマウイルス(以下PV)はイボを作る、ごくありふれたウイルスのグループです。ヒトだけでなくウマ・ウシ・イヌ・ウサギ・ネズミ・トリなどいろいろな動物にも感染しますが、「種特異性」が強くて、ヒトパピローマウイルス(以下HPV)はヒトにだけ感染し、他の動物には感染しません。逆もしかりです。

 HPVには120種を超す多くの遺伝子型があり、確認された型には番号がついています。ほとんどの人の体に見つかるウイルスで無症状のことが多く、もし発がんに関係がなかったらワクチンの必要はないウイルスです。

 120種あまりの中で、性器に感染する型のHPVは約40種で「性器型HPV」と呼びますが、1983年に子宮頸(けい)がんの組織にHPV16型が高い率で存在しているのが判って以来、多くの研究者による知見が進み、子宮頸がん発生に関与する度合いから、次の3つのタイプに分類されています。

①がん組織に高率で見つかる高リスク型
②がん組織には見つからない低リスク型
③前記2つの型の中間、不明なタイプ

 例えば、古代ローマの時代から知られている尖圭(せんけい)コンジローマ、俗にイチジクといわれた派手な性感染症ですが、これはがんになることはありませんので、この原因HPVの6型、11型は低リスク型ということになります。

 逆に、子宮頸がん予防ワクチンの標的になっている16、18型は感染しても症状はありませんが、がんを誘発することがあるということで高リスク型。この2つの他にも13種ほどがこのグループに含まれますので、認可されたワクチンの子宮頸がん予防効果が100%とまでは言えませんが、少なくとも80%くらいは防げそうです。

 高リスク型HPVは主としてセックスで感染します。侵入するのは子宮頸部の重層扁平上皮と円柱上皮の境の弱いところで、まず粘膜の一番深い所の細胞の中に潜り込み、血液の中には侵入しません。従って免疫ができにくい。更(さら)には、HPVがかなり増えて粘膜の表面に出て来て「持続感染」という状態にならないと抗原(ウイルスそのもの)検査にも引っかからない。感染しても9割以上の人が自然治癒するという弱いウイルスは、人間に察知されないための知恵でしょうか。

 そこら辺にいるありふれたウイルスのHPVに感染するのは風邪をひくようなもので、セックスする限り防ぎようがないのです。繰り返しますが「性感染するが、いわゆる性病ではない」というのが、今回の一連のお話の基本なのです。

 次回は「どこで接種したらよいか?」がテーマです。
 (2010年6月12日号)TOP PAGE

「③予防ワクチンはどこで接種したらよいか?」

 昨年12月に厚労省で認可されたワクチンは、サーバリックス(グラクソ・スミスクライン社)という、16・18型ヒトパピローマウイルス(以下HPV)の2価ワクチンです。

 子宮頸(けい)がんの予防が目的のワクチンですので、産婦人科はもちろん、小児科、内科などでも受けることができます。3回の筋肉内注射(初回・翌月・6か月後)をきちんと受けないと、十分な成果が得られませんので注意してください。

 接種には、ほとんどの医療機関で「予約」が必要です。理由としては、高価なワクチンですし、凍結を避けて2~8℃での遮光保存が必要なこと、他の生ワクチンを受けた人は4週間過ぎないと受けられないことなど、一般的な接種の注意事項があるだけでなく、接種を完了した女性でも成人後には子宮がん検診を受ける必要があり、効果の持続期間や限界など十分な説明を受けて納得した上での接種がベターだからです。なお、産婦人科は若い世代には抵抗感があろうかと思いますが、内診などをすることはなく、一般の診療科と同じです。

 ワクチンの最適な接種年齢はHPV感染を考えなくてよい、また、免疫を得る能力が高い10―14歳。その年代以上で、セックスデビュー後の女性にも一定の効果が期待されていますが、これについては次回説明します。なお、妊娠中の女性や3回接種の途中で妊娠した場合は、接種を継続できません。

 皆さんが心配される副作用ですが、多くのワクチンの中で最も安全性が高いランクです。よく起きるのは注射した所の発赤と痛みで、軽い場合も含めると9割ほどに起こります。主な原因は、ワクチンの効果を良くするための添加物(アジュバント)に、注射した筋肉の中にワクチン成分をとどめる作用があるためです。逆に言えば、免疫を作る効果が良く出ていることでもありますので、過剰な心配はいりません。

 最後に、気になる費用については、国の負担が望まれますが、日本ではごく一部の地域を除いて公費負担もなく、予防のためなので保険も使えません。希望接種(プライベートワクチン)という現状です。3回の接種で5万円以上という高価な理由や、製法などについては改めて紹介しますが、丁度、胃がんを防ぐためのピロリ菌除去と同じ程度のコストと聞いています。

 次回は「ワクチン接種の適齢期を過ぎた女性は? キャッチアップ接種とは?」です。
 (2010年6月26日号)TOP PAGE

「④接種に適した年齢を過ぎた女性は?〜キャッチアップ接種について」

 キャッチアップというのは、「追いつく」との意味です。つまり、ヒトパピローマウイルス(以下HPV)ワクチン接種に適した年齢を過ぎた女性とか、注射を3回出来なかった人などを対象に追加的に接種することです。

 「世界の主要国の中でHPVワクチンをしていないのは北朝鮮と日本だけ」などと揶揄(やゆ)されながら、先進諸国に遅れること5年以上もかかって漸(ようや)く認可された訳ですから、表題のような質問を受けることがよくあります。

 このキャッチアップ接種がどのくらいの効果を挙げられるか、相当の年数が経たないと数字的に正確には判りません。しかし、かなり期待出来る理由がありますので、いくつか列挙してみましょう。

 ①セックスデビュー後の女性すべてが既に感染している訳ではない、デビュー前も含めて効果があると考えられる。

 ②日本で認可されたのは16型と18型に対する2価ワクチンですが、この両方の型に同時に感染する確率は高くないそうです。とすれば16型に感染していても、18型予防効果は期待出来る。逆もしかりですから、両方の型に感染するよりは良いのではということです。

 ③16、18型以外の型のハイリスクHPVにも、若干の効果があるのでは? との意見もないではありません。

 ④HPVに感染しても9割くらいは自然に排除(治癒)される。これは既に述べた通りです。ただ問題は感染したHPVは血液内、リンパ系には侵入せずに、子宮頸(けい)部の粘膜の最深部の細胞内にもぐり込んで増殖する。従って免疫抗体が出来にくい。リスクの高い型ほどこの傾向が強い。となると、自然治癒しても再感染の可能性がある訳で、これにはキャッチアップ接種が役に立つ訳です。

 最後にHPV抗原(ウイルスそのもの)の検査が、ワクチンを接種するかしないかの判断に役立つか? についてですが、例えば潜伏感染の時期には陰性に出るなど、100%の役には立ちません。これについては稿を改めて説明します。抗体検査は研究室レベルではもちろん実用されていますが、市場には出ていません。

 結論的には、このワクチンが「治療ワクチンではない」ことを念頭に、「あるいは無駄かも知れないが」ということもあり得ることを理解された上で、キャッチアップ接種をというのが現状だと思います。先進国ではかなり積極的に実施されております。

 次回は「男性のHPV感染?」がテーマです。
 (2010年7月10日号)TOP PAGE

「⑤男性のヒトパピローマウイルス感染」

 「多くの女性が一生に一度はヒトパピローマウイルス(HPV)に性感染する」のならば、「男性にもたくさんいるのでは?」という疑問を持たれるのが普通でしょう。それなのに男性についての報告は少なく、結果もまちまちで、分からないことが多いようです。

 このウイルスは分離、培養ができず、血液・リンパ系に侵入せず、抗体を作る力が弱く、無症状であるため、HPV感染の診断は「感染部位からHPVのDNAを検出するのが唯一の方法」です。従って、
 ①女性は子宮頸けい部というHPV感染経路が明らかですが、男性はそのように適した検査材料の採取場所がありません。尿なども不適当で、陰茎・陰嚢のうはじめ外性器と周辺皮膚を広く拭ぬぐって調べます。医師でも躊ちゅうちょ躇するような作業ですから例数が得にくいのです。
 ②男性は女性の妊娠、がん検診のような検査機会が少なく経過観察も難しいのです。
 ③いずれにしても男性にハイリスクHPVがうじゃうじゃいる訳でもないのです。コンドームは感染防止に有効とされていますが生涯使う訳にもゆかず洗浄などもあまり意味はないでしょう。

 もう一点、「男性にも予防ワクチンを使ったらどうか」とお考えになったことはありませんか? この評価は難しく、また、子宮頸がん予防の目的は女性へのHPVワクチン接種と検診の併用で対応できます。男性はHPVのスクリーニング検査、ワクチン接種の必要性は乏しいとされ、ほとんどの国で適応外です。

 ただし、尖せんけい圭コンジローマを起こすローリスク型の6・11型を頸がん予防の16・18型に加えた〝四価ワクチン〟はオーストラリア、ペルー、ニュージーランド、メキシコ、お隣の韓国などで男性への接種が承認されています。この四つの型は混合感染が少なくないとも言われますが、いわゆる〝性病〟予防ワクチンになり、慎重な評価が必要です。

 次回は「ヒトパピローマウイルスのワクチン製造法」です。高価な理由も紹介します。
 (2010年7月24日号)TOP PAGE

「⑥遺伝子工学によるHPVワクチンの作り方」

 既述のように、子宮頸けいがん発生に関与するヒトパピローマウイルス(HPV)は、ウイルスだけを分離したり、培養したりすることができません。従って、皆さんご存知のインフルエンザのように、分離した病原ウイルスを有精鶏卵で増やし、それをエーテル処理、脂質除去、ホルマリンで不活化してワクチンにするというような製造手法では作れないのです。

 そこで開発されたのが、遺伝子技術を駆使した子宮頸がん予防ワクチンの製法です。 ウイルスというのは遺伝子(子孫を残すための設計図)を薄い殻(カプシド)で覆っただけのものですから、自分だけでは繁殖することができません。他の生物に侵入して、そこを自分の工場や材料にして子孫を作る訳です。ところが、この殻の主成分であるL1という蛋たんぱく白質だけをみると最も抗原性(免疫抗体を作る能力)が高く、ワクチンを作るのに良い材料であることが分かりました。

 そして、このL1蛋白質はイラクサギンウワバ(昆虫)の真核細胞の中で、遺伝子組み換え技術によって効率的に増やせることが分かったのです。 こうして増やしたものを高度に精製すると、信じられないかも知れませんが、L 1 蛋白は「自己集合」して球状になり、H PV と同じ外観の丸い殻を形成します。これを「ウイルス様粒子( V LP)」=図=といい、子宮頸ガン予防ワクチンの成分なのです。 ヒトパピローマウイルスと違って、VLPは中身の遺伝子蛋白(E1、2、4、5、6、7)、つまり設計図が入っておらず、例えばピンポン球のようにカラッポですから、感染、増殖、発がん性はまったくありません。その点、極めて安全ですし、免疫を作る力も自然感染の数10倍という優れたワクチンです。

 このように遺伝子工学を駆使して作られるため、高価である理由もご理解いただけたと思います。

 また、このワクチンが16・18型HPVによる子宮頸がんの前がん性病変を防ぐ持続期間も、先進国のデータで7年以上続くことが実証されています。シミュレーションでは効果が少なくとも20年間は維持されるといいます。

 さらに技術的には他のハイリスクHPVについても可能で、万有製薬では16・18型に他の7種の型を加えた「9価HPVワクチン」を開発中と聞いています。

 ちょっと難しかったでしょうか? 次回のテーマは「HPVワクチンが感染予防だけで、治療効果がない理由」です。
 (2010年8月28日号)TOP PAGE

「⑦HPV感染予防ワクチンが治療には効かない理由は?」

 認可されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、16・18型HPVが性感染することを防ぐことはできますが、既に感染している場合の治療効果はありません。

 少し詳しく言いますと、ヒトの細胞の中に感染してしまっているHPVを殺したり、HPVが持続的な感染状態になることでできた子宮頸けいがんの前触れの前がん細胞を治したりすることはできないのです。

 その理由ですが、まず、HPVワクチンを筋肉内に注射すると、前回説明した成分のL1蛋たんぱく白により、HPV感染に特異的な効果がある抗体が、血液の中に自然感染より遥はるかに高い濃度で産生されます。これが血液からリンパ液、細胞間液に移行し、HPV性感染の侵入経路である子宮頸部や膣の粘膜表面が、この抗体を多量に含む分泌物で覆われます。これで、入って来るHPVの侵入をブロックします。このような仕組みを「液性免疫」と言います。

 逆に、治療に無効なのはなぜでしょう。

 HPVは古くから人類と共存し、感染しても無症状であり、ほとんど自然治癒するといった弱いウイルスです。感染しても人の血液やリンパ液、組織の中には入り込まないなど、ヒトに察知されない、つまり免疫システムに捕まらない特性を持っています。

 HPVの侵入場所は、主として子宮頸部の2種類の粘膜上皮が混在する「移行帯」という弱い所とされています。この移行帯の外側の粘膜は「重層扁平上皮」と呼ばれ、屋根瓦のように平べったい細胞を何層にも厚く積み重ねたようになっており、HPVは感染すると一目散に、その上皮の最深部にある基底細胞の中に潜り込んでしまいます。

 ところが、HPVワクチンの作用はウイルス侵入を子宮頸部の粘膜細胞の表面でブロックする「液性免疫」なので、ヒトの細胞の中に潜り込んでしまっているHPVには届かない。つまり「細胞免疫」には関与しない。治療には効かない―という事です。

 ここで、HPVの増殖の仕方についても説明しておきます。HPVの侵入する基底細胞は縦にも横にも分裂増殖できる所で、HPVはこの細胞の核の中に自分の遺伝子蛋白を入れて細胞の中では数を増すことなく、基底細胞の増殖にただ乗り利用して当初は横方向に拡がっていきます。細胞の外に姿を出さないのです。医学的には「潜伏感染」といいます。

 ある時期が来ると子宮頸部粘膜の表面に向かって、縦方向の「増殖感染」に移りますが、皆様そろそろ頭が痛くなって来られたと思いますので、このあたりの話はまた機会があったらにしましょう。

 次回は「HPVの検査」の予定です。
 (2010年9月11日号)TOP PAGE

「⑧HPV感染の検査について~抗原検査と抗体検査」

 ヒトパピローマウイルス(HPV)感染には、病原体(遺伝子)を調べる「抗原検査」と、感染によって血液中にできる免疫抗体を測る「抗体検査」とがあります。

 抗原検査は既に商品化されており、婦人科を主として、医療機関で行えます。一方、抗体検査は、強い免疫を作れるワクチンの効果の判定などには有用ですが、一般の臨床で常用する利点には乏しいのが現状です。というのも、発がん性HPVはヒトの免疫応答を回避するさまざまな仕組みを持っており、特にリスクが高い型ほど抗体ができにくいからです。そういう訳で、抗体検査は研究室レベルではもちろん使われていますが、商品化されてはいません。

 従って今回は、抗原検査の話を主とします。検体(検査の材料)は子宮頸けい部細胞診と同じように、子宮の入口の周辺をブラシでさすり、固定液に浸して検査施設に出します。4℃の冷蔵保存が必要です。

 判定に使うのは、厚労省で認可された「アンプリコアH P V 」という抗原検査製品で、国際的にハイリスクと認定されている13種の型のH P V(16・18・31・33・35・39・45・51・52・56・58・59・68型)を、PCR法(極めて簡単に説明すれば、遺伝子核酸を高度な技術で増幅し、発色させて型を特定する)で一括判定する日本初のHPVキット(体外診断用医療品)です。

 このPCR法は一つ一つの型を特定できるのですが、このキットの検査結果報告には、検出されたHPVの型番号は表示されません。個々の型を特定しても、コストに見合う医療上のメリットが少ないためでしょう。

 また、健康保険が使えるのは、子宮頸部細胞診をした結果、前がん病変である「異形成」の細胞なのか、これに似た非前がん性の変化なのか、細胞の形態だけでは区別がつきにくい場合(医学的には「意義不明な異型扁平上皮細胞がある」ランクといい、英語の頭文字を取って「ASC―US」と表示される)に、仕分けのためのマーカー的な役割として行った抗原検査に限られています。これ以外の抗原検査は自費というのが現在の規則です。

 前がん病変の確実な早期発見と正確なスクリーニングのためには、従来からの子宮頸部細胞診とHPV抗原検査のどちらが優れているかということだけではなくて、この2つの検査の組み合わせを適切に行うという視点が大切です。先進国では関連学会でいろいろなガイドラインが公表され、公費負担も含めて、精密検査の要否、検査の間隔などを決めているのが現状です。

 次回は原点に戻って、「HPVは性感染するが、いわゆる〝性病〟ではない」に関連した事項についての話です。

 (2010年9月25日号)TOP PAGE