市川よみうり連載企画

FM





  大正14年3月1日、ラジオの実験放送電波が、東京・芝浦のスタジオから発射された。この日、桐原音次郎アナウンサーが発した第一声は、「あー、あー、聞こえますか、JOAK、こちらは東京放送局であります」。当時、東京は、関東大震災の復興さ中だった。同放送局総裁・後藤新平は、放送の機能について、次のように述べた…。
 ラジオ放送は、
 文化の機会均等=都会と辺地、老若男女、各階層を問わず、均等に電波の恩恵をもたらす。
 家庭生活の革新=一家団らんの楽しみが味わえる。
 教育の社会化=放送により各種の知識を得ることができる。
 経済取り引きの活性化=海外経済事情や株式 ・商品市況の即時伝達ができる。
 同放送局は芝浦で「仮放送」を約4か月続けた後、芝・愛宕山(あたごやま)に移転し、同年7月12日から「本放送」を開始した。この年、名古屋、大阪でもラジオ放送がスタート。翌大正15年に、三つの放送局(東京・名古屋・大阪)は合同して、全国組織の日本放送協会(NHK)となった。そこには、ラジオを全国に普及させて、緊急・非常の際に活用したい−という政府のもくろみがあった。
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 「あー、あー、聞こえますか?」の実験放送から75年たったいま、ラジオはわれわれの生活の中で、どのような位置にあるのだろうか。さきごろ民放連音声放送委員会が全国の約1700人(12−69歳)を対象に行った調査によると、時間帯・聴取者層は、午前中と深夜の時間帯に、マイカ−通勤のカーラジオで4人中3人が、従業員50人以下の職場では一日平均60分以上、ラジオ放送を聞いている。
 「聴く」というより、BGM代わりに「聞き流す」。他のマスコミ媒体(新聞・雑誌・テレビ)やインターネットも、ふんだんに情報を提供してくれるし…。紋切り型の放送は「もう、お腹いっぱい」。ところが、「そんなこと言わずに、ちょっと聴いてくださいよ」と、聴取可能エリアを半径10キロ程度にしぼった、地域の「コミュニティー放送」が、電波のスキ間からささやきかけてくる。
 全国のコミュニティーFMリスト(平成12年6月現在)を見ると、76 ・1〜88・8MHz(メガヘルツ)の間に、なんと131局。千葉県内では市川市の「いちかわエフエム」(83MHz)、浦安市の「FMうらら」(83 ・6)、木更津市の「FMべる」(83・4)といった具合だ。
 さて、「コミュニティー放送」とはいったい何だろう? だれが放送しているのか? これから実態を検証してゆこう。

<1>


「コミュニティーFM」とは、郵政省が免許する市町村単位の小規模なFM局。住民参加型の番組制作を基本にしている。平成4年に函館山ロープウエイが「FMいるか」を開局させたのを皮切りに、同10年には全国で100局を越え、現在の131局に至っている。その急増ぶりは、ラジオ多局化の先端現象−といわれている。
 いま、コミュニティーFM局から、どんな番組が流されているのだろうか。平成10年9月開局の「いちかわエフエム」(83メガヘルツ)を試聴してみた。
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 「この秋、初めて番組表に名前が載りました」というパーソナリティーが、ぎこちないおしゃべりをしている。そこに、リスナー(聴取者)からファクスが届く。
 「最初は緊張するけれど、大きく深呼吸して、頑張って!」「ハイ! 頑張ります」 新米パーソナリティーとリスナーのほほえましいやりとりだが、はじめてコミュニティーFMを聴く人は、たぶん、「何だ、こりゃ?」
 一方、「この番組も、皆さんのお陰で百回を越えることができました。きょうは記念の特別企画を…」と、余裕たっぷりのパーソナリティーもいる。番組中、続々と送られてくる電子メールやファクスをていねいに読み上げ、自分の意見をはさみ、話題をふくらませている…。同局の番組は、生放送で一人のパーソナリティーが聴取者に語りかけながら、リクエストや自分がお気に入りの曲を流すスタイルが多いようだ。定時に、新聞社から配信されるニュース・地域の天気予報・市からのお知らせなどがはさみこまれる。リスナーからのおたよりは、夜の時間帯に多い。
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 日曜日の夜八時、JR本八幡駅近くの商業ビル7階にある同局を訪ねてみた。ちょうどボランティアの女性パーソナリティーがマイクに向かって生放送中。
 「あのね、この前、私の子供が、学校の友達に、『君のお母さん、ラジオでしゃべってるでしょ』と言われたらしいの。何だかうれしいやら、はずかしいやら…。それでは、いつもこの番組を聴いてくれているラジオネーム〇〇さんからのおハガキを紹介しましょう! ワッ、イラストが入ってる。うれしい!」。スタジオの窓ガラス越しに見える女性は、とても楽しそうだ。ひとりで機械を操作し、お気に入りの曲をかけ、リズムにあわせて体を揺すっている。
 うす暗い局フロアには、出番を待つパーソナリティーが2、3人。どの顔にもうっすらと緊張感が漂っている。その中で、開局当初から、毎週日曜日夜11時−翌朝2時までの3時間番組を続けているパーソナリティーと話をすることができた。3年目を迎える『トランスなかたにのNightでないと!』を担当している。
 なかたにはいう。「(コミュニティーFMが)県域放送と同じ手法で競争しても、ハッキリ言って勝てるワケがない。だから、『いちかわエフエム』のポリシーは…」     (文中敬称略)

<2>


深夜12時ころ、県域ラジオの番組を聴いた。人気女性アイドルグループが、内輪話でワイワイ盛り上がっている。「こんな話は、ジコマン(自己満足)だということは、分かってるんだけどねー」「でも、いいじゃん」「そうかなあー、まっ、いいか!」。延々と続く彼女たちの一方的な「ジコマントーク」も、ファンなら、また、楽しからずや?

 市川市内で聴取できる県域AM・FMは、あわせて15局を超える。地域限定版の「コミュニティーFM」も、FMということばが付く以上、FMの電波を使い、県域局と同じ土俵で戦っている。低予算・人材不足のハンデを抱えながら、いかにリスナー(聴取者)をひきつけるか…。創意工夫、アイディア勝負といったところだろう。
 全国に130以上あるコミュニティーFMには、それぞれ個性がある。たとえば『いちかわエフエム』の番組のキーワードは、『自主製作』『生放送』『ワンマンパーソナリティー』。つまり、ボランティアのパーソナリティーが、ひとりで自分の番組を企画・構成。生放送中、自ら機械を操作し、マイクに向かっておしゃべりする。

 同局開局当初(平成10年9月)から、日曜深夜3時間の生放送番組を担当しているトランスなかたには、「小さいころからラジオをよく聴いていました。小学生のとき、友達を集め、2台のラジカセを使って『ラジオ番組を作る遊び』をしたこともあります」。

 そして、いま、「私の番組の根底には、『番組を作って電波に乗せ、みんなに自分の考えを知ってもらう。それに対して賛成であれ反対であれ、(リスナーと)何かしら意見を交わしたい』という気持ちがあります」。ジェンダー(世の中の男女の区分けにもの申す)・通信・放送・乗り物などの話題を提供するコーナーを設け、情報を発信しながら、リスナーとのコミュニケーションをはかる。「コミュニティーFMで番組をやりたいという人はたくさんいますよ。でも、技術的な問題や、具体的に何をやりたいのかが見えず、実際に番組になるまでに時間がかかるというのが現状かな」
 そんな中で、なかたには、『いつもメールを読んでくれて、ありがとう』と喜ぶリスナーに、「こちらこそ、おたよりをくれて、ありがとうございます」。メールを読みながら「うん、うん」とあいづちを打ち、時には反論もする。パーソナリティーとリスナーの距離は、県域局よりも近い。「自己満足の番組はやりたくないですね。聴いている人が楽しくないと思うから」。なかたには、番組の中で、いつもリスナーにこう語りかけている。

 「ラジオは、人と人がダイレクトに電波を通してぶつかり合う、昔ながらのメディア。『聴いて、感じて、参加する』のが鉄則ですよ。来週もまた、ラジオの前で待っていてくださいね」。確かに、聴取者は、自分の書いたおたよりが、即、公共の電波に乗って読み上げられると、ドキドキする…。    (文中敬称略)    





 ラジオの聴取率調査(ビデオリサーチ社担当)は、首都圏の場合、東京駅から半径35キロ圏に住む満12−59歳の男女を無作為に抽出し、偶数月に行われている。同調査は、対象者に在京AM・FM局の一週間分の番組名が記載された調査用紙を郵送し、聴取番組を五分刻みで記録してもらうやり方。

 聴取率が営業収益に直結するラジオ局は、「聴取率調査週間」に入ると、番組に有名ゲストを招いたり、プレゼント商品をばらまいたりと、あの手この手。そんな聴取率競争など「どこ吹く風」のコミュニティーFM。いや、内情は、競争どころではなく、自局の体制を整えるのに精いっぱい…。

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 現在、どんな人たちが、どれくらいコミュニティーFMを聴いているのだろうか。聴取のキッカケは? 聴取率がハッキリ分からない局側にとって、それは気になるところだろう。「いちかわエフエム」(以下「いちエフ」)のに寄せられるリスナーからのメッセージは、一日平均、手紙=5件、Eメール=40件、ファクス=30件、電話=2件。その中に、こんなリスナーの声があった。

 「ラジオのチューニングを合わせていたら、たまたま『いちエフ』の電波が飛び込んできた。パーソナリティーのおしゃべりがおもしろいので、以来、特定の番組に限って聴き続けている」(30代男性)。『たまたま』の出会いから、「『いちエフ』のほとんどの番組におたよりを出している」年齢不詳の男性リスナーは、旅先からもハガキで「パーソナリティーの〇〇さん、頑張ってください!」。つまり、偶然の出会いがあり、その出会いに満足したリスナーは常連となって、パーソナリティーと電波上で密度の濃い付き合いを始める。

 ここで、リスナーからのアクセスが殺到する「いちエフ」の番組を上位から挙げてみよう。『いわさきひかるの1KHz』(月曜深夜)と『夏目みかんの あ!moon light ないと?』(土曜深夜)。両番組とも、1回の放送中にリスナーから平均30−40件のアクセスがある。「高聴取率」ならぬ「高おたより率」のヒミツは?

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 夏目みかんは、「ふだん着のことば」で語りかけてくる。リスナーの居心地のいい場所づくりがうまい。番組の中で、みかんとリスナーは、会話のキャッチボールをしている。なるほど、語り手が高飛車にならず、聞き手に近づいていけば、その距離はここまで縮まるものなのか…。
 「私は、小さいころから、『プロのリスナー』だったんです。だから、聴く側の気持ちがよく分かる」と、みかん。ラジオとの一体感がほしかった。リスナーとパーソナリティーの壁を取り払いたかった。コミュニティーFMなら、それができる。彼女の喜びは、番組の随所にあふれ、こぼれる。「そんな風に考えているのは、私だけ?」。そう言いながら、みかんは「いちエフ」のパーソナリティーになるまでの経過を話してくれた。     (文中敬称略)
    





 「パーソナリティー」のもともとの意味は『個性・性格・人格・人間的魅力』のこと。県域ラジオ局の場合、パーソナリティーの多くはタレントやアナウンサーが務め、放送人としての知識や経験の上に立って、自分の個性を輝かせている。だから、番組に安定感がある。ところが、コミュニティーFMのパーソナリティーは、放送に関して経験が浅く、個性むき出しになるケースが多い。

 オン・ザ・ジョブ・トレーニング。つまり、コミュニティーFMのパーソナリティーの多くは、ボランティアという立場で、十分な基礎訓練を積まないままマイクに向かい、失敗を重ねながら成長してゆく。大事な放送人としての自覚は、あとまわしになる。開局3年目を迎えた「いちかわエフエム」の番組表(平成12年秋号)を見ると、70近い番組がある。放送スタート時の番組表と比較すると、年4回(春・夏・秋・冬)の番組改編を乗り越え、生き残った番組は数少ない。そこには、さまざまなパーソナリティーの交代劇があったのだろう。さらに、同局の放送を聴いていると、番組表に記載されていない「試験放送」がある。現在、「いちエフ」のパーソナリティーとして毎週土曜夜、3時間の生放送番組を持つ夏目みかんのデビューは、真夜中3時から1時間の「試験放送」だった…。

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 平成11年12月、パーソナリティー未経験のまま、みかんは真夜中の「試験放送」番組を持つことになった。昼間に番組を録音して、それを深夜に流してもらうことも可能だった。だが、みかんははじめから生放送にこだわった。「だって、リスナーのみなさんは、ナマで聴いてくださっているんですもの」。真冬の真夜中、スタジオでひとりマイクに向かった。でも、「きっと誰かが聴いていてくれる」と信じて疑わなかった。それは、「大きな海に向かって、手紙を入れたビンを流すような気持ちでしたね」。

 番組を持って、ひと月たったころ、スタジオのファクスが動いた。はじめてのリスナーからの反応だった。「うれしかったですよ。乾いたのどに一杯の水−、という感じかな?」。ポツリポツリとおたよりが届いた約四か月の試験期間を経て、今年四月から番組表に名前が載った。「夏目みかんの あ!moon light ないと?」。夜の生放送に強いことが認められた抜てきだった。今度は夜11時からのスタートという好条件もあって、リスナーからひっきりなしにおたよりが届くようになった。みかんは、どのおたよりにも「サンキューですっ!」と喜ぶ。半年たったいま、「やっと放送が楽しくなりました。そして、自分の番組を客観的に見ることができるようになった。『夏目みかんの番組』というより、『リスナーと一緒に作る番組』だと思っています。数あるラジオ局の中から、『いちエフ』の番組を選んで、聴いて、おたよりをくださるリスナーのみなさんに感謝しています」。

 次回は、「いちエフ」で異彩を放つ2人のパーソナリティー、月曜日深夜の「いわさきひかる」と、同「上川浩一」にスポットを当ててみよう。     (文中敬称略)


<1>


 「『ラジオ』−それは、最後に残されたフロンティア」(「いちかわエフエム」パーソナリティー・トランスなかたに)。なかたにの言葉を拡大解釈すると、コミュニティーFMのパーソナリティーたちは、失われかけた地域コミュニケーションの復活に敢然と立ち向かう「開拓者たち」なのかも、しれない。今回は、フロンティア精神旺盛なふたりの「いちエフ」男性パーソナリティーにスポットをあててみよう。

 「いちエフ」毎週月曜深夜の番組「1KHz」を持つ、いわさきひかる(夜11時−翌朝2時)と続いて登場の「よなよなJ−HITS!」(2時15分−4時半)の上川浩一。ふたりの番組をワンセットにして聴くと、それぞれの個性がより際立つ。ここで、時空を超えてふたつの番組を同時進行させてみよう。時は10月16日。この日は、各パーソナリティ−が自分の番組で流す楽曲のレコード番号や作詞・作曲者名、放送時間などを、ふだんより詳しく専用シ−トに記入し、JASRAC(日本音楽著作権協会)に提出しなければならない特別な日。だが…。
  

−◇−  −◇−

 え〜い、めんどうだ! ひかるは、「今夜は曲をかけません。鼻唄も歌わない」作戦に出た。「3時間ひとりでしゃべり倒すぞ!」。ひかるのマシンガントークに、ついてこられるものは、ついてきな。一方の上川は、のったりトーク。「夜中に出てきて、勝手にしゃべっている人=上川浩一です。一週間のごぶさたです。バシバシッとリクエストをいただけると、『三方一両損』。さ、今日の裏テーマは『変な曲』」。

 ひかるは得意の「通信販売」ネタ。日ごろから市場調査をおこたらず、「通販王国への道」をひた走る。「ラジオショッピングって、なんで『うめぼし』とか『お茶』が多いんでしょうかねえ。ラジオの場合は、視覚ヌキ、ことばだけで伝えるから、ある程度自信のある商品・値段でなければ扱えない。不良品だったら、2回目からは誰も買わなくなりますからね」。
 真夜中、上川のもとにぽつぽつと雨だれのように届くリクエスト。「あー、『変な曲』をかけると、ワクワクするね。ボクが中学生のころ、(ラジオの)深夜番組で、掘り出し物の曲をかけるのが流行ったんですよ。商業的音楽ビジネスに逆行するような曲をかけていきたいですね。ふっふっふっ…」。

 「ぬるい」ネタだと、ひかるはもの足りない。でも、いったんツボにはまると、机をたたいて大笑い。「オレ、のってきたぞー」。いよっ、そのひと声を待ってました! マシンガントークがさえわたる。あれれ、いつの間にか、話題が「テレビのクイズ番組」に変わってる…。

 上川は、「いちエフ」のインターネットホームページの中に、イッパツで在庫の曲が分かる秘密兵器「検索君バージョン0・1」を仕込み、リスナーがそれに気づいてくれるのを「ふっふっふっ…」と待っている。     (この項つづく)    (文中敬称略) 


<2>


 「いちかわFM」の個性派パーソナリティー・いわさきひかるVS上川浩一「亜空間バトル」の途中ではございますが、ここで、ちょっと、「コミュニティーFM基礎講座」。平成6年、大阪で開かれた「第1回全国コミュニティー放送サミット」から拾った名言あれこれです。(資料提供=『全国コミュニティー放送協議会』)。まず、同サミットの特別ゲスト=イーデス・ハンソン(タレント)は、コミュニティー放送の原点を次のように語っています。
 「私の住んでいる和歌山県の田舎町には、"昔ながらのコミュニティー放送"といえる二人のおばあちゃんがいます。二人は(自分の住んでいる集落のことなら)何でも知っている。朝起きたら外へ出て石垣に座って、あたりの様子を全部見る。そして、道行く人に、何があったか(集落情報)を話す。それがあまりに正確なので、二人にはそれぞれ"第一放送""第二放送"というアダ名が付いています」
 この「おばあちゃん放送局」の番組は、「歴史の時間」=集落の歴史、「イベント案内」=冠婚葬祭情報、「買い物案内」=農産物の出来具合・取り引きなど。「番組の内容に人を傷付けるものはないんです。結局、放送する人も聞く人もそこで生活しなければならないから、みんなが傷つかないように−と自主規制しているんですね」

 続いて、林敏彦(大阪大学教授)は、「なぜ、今、コミュニティ−放送なのか?」を学問的見地で語っています。
 「『表現の自由』とよく言われますが、いまや、『自由だ、自由だ!』と言っているだけではもの足りなくなっている。他人から認めてもらわないと満足できない。拍手喝采してもらえる舞台がほしい。舞台の上で『私はこんな暮らしをしています』ということをみんなに言いたい。そして、そのことがだれかの役に立っていると思いたい。最近そのためのいろいろな手段や舞台装置がそろってきた。特にコミュニティー放送なんかおもしろい舞台だなあと、思います」
  

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 さあ、長らくお待たせしました。ゴングが鳴って、「亜空間バトル」の再開です!
 メール件数がいまひとつで、「うわ〜っ、リスナーが引いていく音が聞こえる」と絶叫する、いわさきひかる。きょうはリスナーの期待と同時に、クレームも多い「シモネタ攻撃」がありません。話題が片寄りすぎたかな ? レフェリーから厳重注意を受けているのでしょうか。
 ここで、リングサイドの高校生(17)の意見を。「え〜っと、いわさきさんは、リスナーからのメールが一通も来なくても、きっと3時間しゃべれると思います。『いちエフ』の番組を聴いていると、ほとんどがワンパターン。あたりさわりのないおしゃべりをして、曲をかけて、『おたより、くれ、くれ』と連呼する。工夫がないです。その中で、いわさきさんは、型破りで、自分のエネルギーをしぼりだすように話して、すごいなと思う。学校生活・受験についての相談メールにマジになって答える一面もあるし−。これからも、みんなをびっくりさせるような『激ネタ』を期待しています」。 (この項つづく)(文中敬称略)

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 あのー、きょうは架空実況放送をお送りします。コミュニティーFM局のかけ出しパーソナリティーに変身して、気ままなおしゃべりをしてもいいでしょうか? えーっと、まあ、そんなふうなワケでぇ…、そんなふうなかんじでぇ…、そんなふうに考えるのは、わたしだけでしょうかね…(しばし、無音)。まっ、いいや、話を続けます…。

 あっ、そうだ! わたし、キャリアアップのために、『ラジオパーソナリティー二十二人のカリスマ』(軍司貞則著)っていう本を読んだんです。その中に、こんなフレーズがあったんですよ。『(ラジオの)番組を聴こうという人は意志のある人だ。パーソナリティーの話の中から面白いものを探そうと考えてくれる人だ。その人たちに向かって、お前は喋(しゃべ)るんだ。自分のイメージをどんどんふくらませろ。嘘(うそ)をころがせ。見えないことが最大の武器だ。そして、いままでラジオを聴かなかった無名のリスナーを新規開拓しろ!』
 ねっ、すごいでしょ!

 県域局の深夜番組で大人気のパーソナリティー ・伊集院光を鍛えたベテラン放送作家のことばなんです。この放送作家は伊集院に、「嘘をころがせ」と言いながら、一方で「時代を象徴するもの」「時代より半歩先のも の」を教えたり、ミステリー・歴史書・ベストセラーを読ませたりするんです。内面を豊かにしないと、人にものを語れないぞ−って、ね。
 そういえば、うちの局にも、常連リスナーさんからこんなメールが来てました。「良いパーソナリティーの条件は『声』と『人柄』」。う〜ん、個性だけじゃなくて、声からにじみ出る人間性も大事なのね。
 わたしって、一応コミュニティーFM局のボランティアパーソナリティーなんですけどー、局に放送作家はいないし、番組の内容も全部自分で考えなければならなくて、すごく大変なんです! 正直言って、ネタに詰まることもよくあります。それに、リスナーさんからの反応がないと、「どうせ誰も聞いていないんだから、何をしゃべってもいいや」と思うこともあるの。

 あのね、ここだけの話だけど、コミュニティーFMって、ついつい内輪で遊んじゃうところがあるんです。たしかにクリエーティブな仕事をするとき、「遊び感覚」は必要。でもね、まったく「放送遊び」にしちゃったら、ヤバイかな…。
 このごろ、「どうせコミF」「どうせ誰も聴いていないんだから」と思ったとたんに、番組の存在がなくなるような気がするんです。公共の電波で放送する以上、「どこかで、誰かが聴いている」という気持ちを大事にしたいなー。たどたどしいおしゃべりだけど、それなりに誇りを持って番組を提供したい。うん、がんばろう!
 来たる21世紀は、「どうせコミF」じゃなくて、「コミFだから」できることを探していきたいな。ねーみなさん、どう思います? こんなこと考えているのは、わたしだけ? それじゃ、また来週も、楽しさテンコ盛りでお会いしましょう。バイバイッ!     (文中敬称略)




 約一年間、「いちかわエフエム」の全番組を聴いてまいりました。聴けば聴くほど「コミュニティー放送って、何だかよくわからない」というのが正直な感想。たとえば、番組の中で、「…じゃないかな」「…らしい」「…だっけ?」「まっ、いいか」と、語尾アイマイなコメントをレンパツされると、何を、どこまで、信じていいのやら。天下無敵の小ギャル語で感想を言うと「なにそれ?」「わかんな〜い」。

 何でも自由に気楽に本音を言えるのがコミュニティー放送。「影響力のある媒体だから、ことばのひとつひとつに責任を持って」なんて考えは、「チョー(超)古い」。そんな「ウザイ(うるさい)」こと言わずに、みんなでワイワイ楽しくやるのがいいのかな。でも聴いたあとに疲労感が残るのはナゼでしょう。

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 「いちエフ」のパーソナリティー番組を大別すると<1>無難型<2>教養型<3>お姉様型<4>地道型<5>企画型<6>小ギャル型<7>アーチスト型<8>DJ兄貴型<9>蘊蓄(うんちく)型<10>濃密トーク型。平日の番組の流れを追ってみましょう。

 朝は<1>の無難なスタート。ニュースや天気予報、刺激の少ない身近な話題が、軽快な音楽に乗って流れてきます。正午をはさむ時間帯は教養型の<2> 。子供に関する話題や市内で開かれた催し物リポートなど、総じてお行儀がいい。昼下がりのひとときは、かっこよく流行の曲を紹介する県域局スタイルのお姉様。淡々と身のまわりのできごとや、趣味を語る地道型。市内の開業医と電話で健康相談したり、家事の手抜き情報を集めたりする企画型がお相手。

 夕方からは<2>〜<10>が入り乱れる、びっくりおもちゃ箱。さあ、ここでお待ちかね「イライラトーク」ベスト5の発表です! コミュニティー放送の特徴がよくあらわれていますよ。
 第1位=「仕事(アルバイト・学校)が忙しかったんで…」「どうも体調が悪くて…」「きのう飲みすぎちゃってね…」
 ◎お疲れさま。スケジュール調整と、体調管理は、良い番組作りの基本ですよ。
 第2位=「…たぶんこの番組を聴いている人は、あまりいないんじゃないかと思うんですけど…」「…くだらないおしゃべりをしちゃって、すいませんね…」
 ◎こちらこそ、聴いてしまって、すみません。
 第3位=「今日紹介する私が大好きなアーチストは、よく調べてないんですけど」「わたしの記憶が正しければ−」
 ◎記憶が正しいことを祈ります。
 第4位=「〇〇さんからリクエストをいただいたんですが、その曲はかけません」
 ◎いじわる! だったら何もいわないでちょうだい。それとも音盤がないの?
 第5位=「きょうはムカつくことがいっぱいあって…、ストレスがたまっちゃって…、ここでしゃべるとスカッとするな…」
 ◎おいおい、ここはあんたがストレスを発散する場所か?

 「あんなわけ」「そんなわけ」「こんなわけ」で番組が中途はんぱ。聴く側は「チョー(超)むかつくって感じ」です。なかには完成度の高い番組もありますけど、ね。ところで、耳に心地好いラジオ番組の条件は何でしょう? それは、また次回に。




 今日は、「いちかわエフエム(「いちエフ」)の深夜番組「夏目みかんの あ!moon light ないと?」(十二月二日放送分)から、リスナーの声を採録してみました。同番組のパーソナリティー=夏目みかんの「あなたにとって、コミュニテイーFMって何ですか?」の問いかけに、常連リスナーからさまざまな意見が寄せられています。

 「私にとって、コミュニティーFM(以下コミF)は『友達』『親友』です」(「伊集院」) ※注・リスナーたちはそれぞれ工夫を凝らした「ラジオネーム」を持っています。
 「『パーソナリティーとリスナーの会話の場所』です。リスナーが悩みを書いてくる。それをパーソナリティーが答える。(悩みを)誰にも相談できずにいる人にとって、そこは貴重な場所です。私もはげまされ、元気になりました」(「マリーゴールド」)
 「やっぱり『気楽に』アクセスできるところではないでしょうか。県域(ラジオ)ではヘビーリスナーになってもおたよりを読まれる確率がわずかしかない。コミFは電波の到達距離が狭いですが、そのぶん地域の情報が密接に送られるところです。パーソナリティーは、ボランティアさんですが、『自分のことば』で話してくれるので、身近に感じています。楽しいところです」(「そよ風はいいよね)」
 「ホッとする時間かな。しいていえば『近所のおねえさん? おばちゃん ?』」(「もっと聞かせて)」  「家庭・学校・職場で出会う人間って、大した人数ではない。だからロクな(ちゃんとした?)会話ができる相手なんて、そうめったに出会えるもんじゃない。リスナーと少しはまともな(あたりまえな)会話をしたいという希有(けう)な人がコミFラジオ局にいるならば、老若男女がラジオの前で、彼・彼女らと会話したくなるのも、自然な成り行きと考えております」(「いや〜んかばん」)
 「ずばり、コミFは『終着駅』、『最後の砦(とりで)』です。ほら歌にもあるじゃないですか。〜たとえどんなに冷たく別れても、たとえどんなにあかりがほしくても、オレにはオマエが最後の〜『みちのくひとり旅』って、そんなところです」(「池の坊」)
 「私にとってのコミFMとは、『地域限定情報の発信基地』だと思います。それぞれの地域のための情報が聴けるのは、コミFしかないのです。浦安・木更津(千葉県) ・入間(埼玉県)・江戸川・世田谷・レディオシティ・葛飾(東京都)など、いろんなコミFを聴いてきた中で、独自のプログラムで放送しているのは、『いちエフ』だけです。ほかの放送局では、何局かネットワークを作って放送したり、有線系の放送をタレ流している局もあれば、中には半分、いや三分の二が音楽をタレ流していて、情報が少ない局もある。これではコミュニティーの意味がない。『いちエフ』はえらい。(いちエフのような局が)もっと増えるといいのですが」(「なぞのアビコリスナー」)
 

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 追加。「いちエフ」さん、これだけリスナーに期待されているのですから、どうか期待に答えて極上のコミュニケーションをめざしてください。そのためにも『自分のことば』をしっかり磨いてね(「なぞの市川よみうりリスナー」)     (文中敬称略)



   市川よみうりに次のような電子メールが届きました。「はじめまして。私は市川市塩焼に住む二児の母親です。12月2日の『市川よみうり』を読んで意見があり、おたよりしました。私も家事の合間や子供が寝た後などに、市F(いちかわエフエム)を聞いて2年近くになりますが、聞いた後に疲労感を感じるなんて事は、一度もありません。そりゃあ中には『こんな事言って良いの?』っていう番組もありますけど…」(市Fのいちファン)

 今回は、ラジオのパーソナリティ−トーク番組の形式で、「市Fのいちファン」さんと一緒に、コミュニティー放送について考えてまいりましょう。
  

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 ――わっ、「市Fのいちファン」さん、お初メールですね。ありがとうございます!。この連載は、みなさんのご意見をどんどん取り上げてまいりますので、賛否両論、何でもどうぞ。ご指摘の記事の内容は、「いちかわエフエムのイライラトークに疲労感」ですね。
 『番組をやっている人は、みんな仕事などを持っている、いわゆるボランティアであり、素人さんなのです。それなのにプロがやっているような内容を求めるのは、どうかと思います』
 ――あなたと「いちエフ」の波長はピッタリ! 12月3日、同局日曜日の人気番組「ALT−Radio」(午後10時−同11時)で、パーソナリティーの柳田紳一郎もこんな話をしていました。「ボランティアたちは、皆、仕事などを持ちながら、それでも放送をしてみたいと頑張っている。『いちエフ』のいいところは『かっこつけない』『嘘をつかない』『人マネをしない』、ひとことで言えば『地のまんま』放送。あえてコミュニティー放送に過剰品質を求めるのは、いかがなものだろうか」−と。

 たしかに、「言葉を磨くと、よそよそしくなって、コミュニティー放送の持ち味がなくなる」という考え方もあります。「市エフのいちファン」さんも『有名なFM放送のような内容はないけれど、聞く側も番組をやっている側も両方楽しめる、それがコミュニティーFMではないかと思うのです』とおっしゃいます。
 ――同感です。
 『それを、完成度がどうだとかって感じで聞くのは、どうかと思うし、もしこの記事を実際に番組をやっている人が読んだら、放送を続ける意欲を失くさせるだけだと思います』
 ――う〜む、おっしゃるとおり、ボランティアにプロと同じものを求めても、それは無意味です。しかし、プロにはプロの完成度があるように、アマチュアにはアマチュアなりの完成度があってもいいのではないでしょうか。完成度といっても、それはトーク技術ばかりではありません。たとえば、コミュニティー放送を聴いていて、ニッコリほほえみたくなるのは、パーソナリティーがリスナーに「あたたかい」言葉で接しているときです。そんなときに、パーソナリティーの人柄を感じ、「また聴いてみたい」と思います。
 『いったいコミュニティーFMに、何を求めているんですか?』とも書かれていました。
 ――本連載で取り上げてゆきたいのは、「コミュニティーFMに何かを求める」のでなく、みなさんと共にそれを探ってゆきたい、この点にあることをご理解ください。これからも皆様のご意見をお待ちしています。紙面で、わが街の「コミュニティー放送」について、会話のキャッチボールをしましょう! 直球、カーブ、スライダー、何でもOKですよ。では、よいお年を!     (文中敬称略)




コミュニティー放送を支えているボランティアたちは、さまざまな夢や希望、そして悩みを抱えながら放送事業にたずさわっている。「いちかわエフエム」にも、開局当初から番組作りに取り組んできたボランティアたちがいる。

 同局の小さな長寿番組を紹介しよう。毎週日曜朝十時からの「朗読の時間」。市内に住む40〜50代の女性朗読グループ「モモの会」のメンバー6人が、大切に育てている番組だ。「モモの会」の活動は、子供を対象にした本の読み聞かせからスタート。以来十数年、着々と対象年齢層・レパートリーの幅をひろげ、現在に至っている。彼女たちの番組に対する取り組みは?
 

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 「遅くなってゴメン、ゴメン!」
 「モモの会」メンバーの一人・鶴岡ふみ江が、家業のあい間をぬって朗読の練習会場にかけつけてきた。放送に使うテキストをざっと朗読して、「あとは家で練習するから、もういいでしょ?」と仲間に聞けば、
 「ダメダメ、みんなの前でちゃんと読んで」
  「ひとりでやると、自分勝手に解釈してしまうわよ」
 「よしっ!」と、朗読に再度挑戦する鶴岡。
 「もっと大きな声で」「音が口の中でくぐもってる」「意識過剰になると聴きにくくなる」などなど、周りからきびしいチェックの声が飛ぶ。「みなさんの『苦言』を、素直な気持ちで受け止めています。気にはするけど、メゲませんよッ !」江戸っ子気質の鶴岡は、いつも前向き、プラス思考だ。

さて、こうやって練習を積んだひとり約10分程度の朗読作品を、1か月分まとめて局で収録。このごろは、収録の機械操作も全部、自分たちで出来るようになった。そして、オンエアを待つ…。エアチェックは欠かさない。ふむふむ、電波をとおすと、自分の朗読、仲間の朗読は、こんなふうに聞こえるのか…。
 「このあいだの放送では、最後の余韻が足りなかった」「自分のペースをいかすのもいいけれど、一般の人に聴いてもらうのだから、基本的な発声は気をつけようね」朗読の素材選びも慎重だ。たくさん本を読み、「この作品は、あなたに似合うと思う」「これをやってみたら?」と、仲間同士でアドバイスしあう。

 ──2年あまり番組を続けてきた感想は?
 「最初は怖いもの知らずだった。でも、やればやるほど、自分の下手さを痛感し、もっと頑張らなくちゃ−と思う。耳が鋭くなりました」(吉田昭枝)。「家族が『よくやってるね』とほめてくれる。子供に『これからもずっと続けてね』と言われてうれしい」(黒谷純子)。
 放送には緊張と責任が伴う。でも、仲間がいるから続けられる−と互いに顔を見合わせる6人。ボランティアとして放送にかかわる心構えは?
 「『ボランティアなのだから、こんなもんでいいや』という感覚を持っているとダメになる。甘えたらいけない」(安達陽子)。「つい惰性になってしまうので、常に自分をいましめていないと『ボランティアだから』というところで崩れてしまう怖さがある」(吉田美恵子)。「発表の機会を与えられたのだから、現時点で出来るかぎり最高のかたちを、局や聴いてくれる皆さんにお返ししたい」(的場敬子)。     (文中敬称略)

 ■「朗読の時間」1月の放送予定◇1月7日=川端康成『掌の小説』から『紅梅』◇14日=中野孝次『ハラスのいた日々』◇21日=近藤富枝『色に聴く』から『黒い羽織』◇28日=星新一『王さま』


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