市川よみうり連載企画


■市川中学・高校教諭 石井 信義■

真間川堤のキヅタ類撤去の理由を知りたい立春を過ぎたとはいえまだ気温の上昇は徐々であり、冷たい春雨の降る日も増えてくる。真間川や大柏川に入ってくる冬鳥のユリカモメの数も一月末から少なくなってきた。ただし、餌やりの多い中国分のじゅん菜池や大野町のこざと池ではまだ多く入っているが、主に江戸川下流域に北へ帰る準備か、大きな集団化になってきている。

 真間川、大柏川周辺では紅梅、白梅の花が増加しており、よく見ると、裸の枝にレンギョウやユキヤナギも花をつけている。道端の日だまりにはオオイヌノフグリやヒメオドリコソウ、ホトケノザの花も見られる。ヒガンザクラやカンザクラも花芽がほころび出しており、今週末には一部咲きだすかもしれない。
 それらのなかで川の堤の一部には冬中から現在も緑の葉と大きなイチヂク状の実をつけているオオイタビが目につく。実は草色だが寒気が直接触れていたところは灰色になっている。この実を割って見るとなかにはまっ赤な小果が多数ある。食には適さないが、その赤い色はあざやかである。こんな美しさを外に全く見せずに冬を過ごしてきたわけである。

 ところで真間川や大柏川の川幅を広げての河川改修後には、このようなオオイタビやセイヨウキヅタやキヅタの植栽が実施された。コンクリートの堤面を緑の被覆でとの配慮で、伐採したサクラ並木の復元とともに県と真間川改修事務所と市民とが、長い時間をかけて検討した結果である。当時は行政と市民との合意での成果の一つとして評価されたものである。パリのセーヌ川の堤がまさにそのようなキヅタを中心に被覆されている。

 しかし、昨年からのキヅタ類のほとんどが撤去された。以前から堤に隣接する家々の一部の住民から、コンクリート堤にキヅタ類は、と嫌われて個人的に切られていたことはあった。しかし大規模な刈り取りとなると、行政への市民参加を、と最近はいろいろな機会が行政側から図られ、河川改修での試みのさきがけとなった改修工事であったが、それらの合意事項が大きく変更になるのなら、それなりの理由や市民への説明があってはと思う。当時、それらに深く関係した人たちに聞いてみてもわからないという返事。市民参加で時間をかけて合意し、実施されたものの一方的変更はいかがなものか。

 しかし、これらの市民参加の機会に参加する市民の側にも、あまりにも想像力を欠いた主張も結構多い。調節池づくりの場でも河川改修の場でも力が抜ける事例がある。しかし、話し合いを重ねていくとやはり良い結果は出てくる。
(2002年2月9日)

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市川から都内築地へ十六日、工事中の大柏川調節池の湿地に冬鳥のタゲリが二十三羽も集まり、餌を取っていた。それまでも、今冬は九羽から十八羽ぐらいはいた。例年になく多い。北方町四丁目の湿田には、二十年前までは数十羽のタゲリが見られた。その後、水田の減少と共に冬の貴婦人と呼ばれるタゲリの数は減り、ゼロとか一羽という年もあった。しかし、大柏川調節池の掘削面が拡大するにつれて越冬数が増加し、昔からの数に近くなってきた。
 ゼロとか一羽になった時、市川の昔からの「住民」の彼らに、あなたたちが今後も住める場所を確保するようにがんばるよ−と話しかけた事があった。しかし、具体案は遠すぎていた。いまは夢が現実となったが、調節池が完成して公開後、利用者が中国分のじゅん菜池のように餌やりに夢中になれば給餌に群れるユリカモメやオナガガモ、キンクロハジロが増加、ドバトやカラスも集まりタゲリの住む空間が圧迫されるかもしれない。

 タゲリがいまの数を維持できるか、それとも増加するのかはマナーにかかっていると思う。工事中にも、工事関係者は彼らに気を遣っている。クサシギやチョウゲンボウも毎日姿を見せる。セイタカシギも複数姿を見せていた。十八日にはヤナギ類も花芽が大きくなり銀毛を見せていた。ハンノキの花は満開が過ぎ、周辺林地ではイヌシデの芽が大きく、マユミ、ニワトコは芽吹いている。ヤブツバキも美しい。春は歩みを早めている。
 ところで私はいま、市川を離れ、都内の築地の病院にいる。病気の再発で、当欄の休筆を考えたが、築地から「都市の生物」の紹介も「都市化拡大中」の市川の生物紹介と関連はあるか、と考えて連載を続けることにした。もちろん築地の回数を少なく、早く市川に戻りたいとは願っている。病院に通う際、首都高速箱崎インターで降り、霊岸島を経て築地に入る事が多い。江戸川、中川放水路、荒川、墨田川を越えるが、冬鳥のユリカモメやセグロカモメの数がここ数年少なくなっているようだ。特に墨田川でそれを感じている。以前は墨田川本流や西側の神田川の合流地の柳橋あたりで数多く見られたユリカモメも最近は少ない。

 ところが高いビルに囲まれた市街地の水路にはやたらにユリカモメが多い。それも橋の上やビルの屋上に翼を休めている姿が多い。ヒグロカモメの数もビルの間に多く、餌待ちのキンクロハジロの大きい群れがビルの住民の三階、五階などからの餌やりを待っているのだ。新川や特に日本橋川沿いの湊橋や亀島橋あたりが特に多い。「熱心」な餌やりの人が定期的に現れるところに彼らは集中、それも、じっと待機している。その周辺は糞でいっぱいである。度が過ぎると周辺へのいろいろな迷惑も問題化する。朝の街角の生ゴミに群れるカラスの増加と餌やりのユリカモメの増加がダブってきた。
(2002年2月23日)

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築地、明石町河岸公園の冬の野鳥たち私の入院している病院の東側に聖路加ガーデン内の四十七階のタワーと三十八階新阪急ホテル築地棟がある。二棟のビルとその東を流れる隅田川との間に中央区立明石町河岸公園がある。平成七年四月一日に開園、公園面積は三二五九平方メートル、国有地の道路敷上に造成されている。旧建設省当時から、全国で進めてきたスーパー堤防の都市地域内の川部での事例である。スーパー堤防整備と聖路加国際病院の再開発が重なり、道路敷部を活用した樹木の植栽が多い公園である。市川市でも江戸川市川橋南の旧市川毛織地で、高層住宅群工事と江戸川との間の植栽空間という事例がある。

 中央区内には隅田川沿いの佃公園、石川島公園や、築地川を埋め立てて造成された築地川公園がある。明石町河岸公園には常緑樹、落葉樹の混植や堤の芝地や樹木植栽部分にも狭いが芝地被覆がある。入院後は病室と病院内の屋上庭園に行けるだけ。明石町河岸公園はその十分の一ぐらいと隅田川が建物の間から見える。
 ところでこの公園は過去、診察、検査、薬剤投与などで通院した際、短時間でも足を向け、隅田川を見るのを通例としていた。最近の冬鳥を中心とした、公園内と隅田川で目撃できた毎回十分間ほどの記録では、餌やりに群れるドバトやユリカモメが多いのはここも同じだが、他にも結構多彩である。遠隔地までの飛翔力のある水鳥たちは水系中心から、市街地も平気で飛ぶようになっている。特にユリカモメはそうだが最近ではセグロカモメにもその傾向が出てきている。遠くまでの飛翔力の苦手な林地性や野の鳥もこのような多彩な樹木を持つ公園が増えてきたことは、その活動範囲の拡大に役立つはずである。

 私はいままで野鳥の姿や行動を地上の目の位置か下から見上げる形でしか見ていなかった。しかし、ここからはかれらの行動が「眼下」に観察できる。海、河川の地形、水系に沿っての単独や群れの動き、市街地高層、低層建物の間での飛行など、サイレントではあるがよくわかる。ここに身を置いていると将来は空域でも野鳥の行動や都市鳥の生態を調べる分野ができるのではと思われる。
(2002年3月9日)

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築地明石町河岸の隅田川の一日病院からビルの間を通して築地、明石町河岸公園の一部と隅田川が見える。三月三日、痛みと吐き気のなか一日中、隅田川沿いの野鳥を一時間ごとに記録してみた。全体で十九種、シジュウカラやメジロも姿を見せ、都心にしては一見多彩に見える。しかし一日の観察記録を集計して愕然とした。一日の総数は千九十九羽を観察したが、そのうちの上位五種はユリカモメ六百六十五羽、ハシブトガラス百八十五羽、ドバト九十七羽、セグロカモメ七十二羽、キンクロハジロ二十六羽で総数の九六%を占めている。人の給餌に依存度が高いユリカモメ、ドバト、さらに最近依存度を高めてきたヒグロカモメ、キンクロハジロを加えると八〇%弱になる。築地中央市場や飲食店、そして家庭からの生ゴミ依存のハシブトガラスは一七%であり、人の給餌や出すゴミに関係する野鳥が九六%強に及んでいることはやはり異常化と言ってよいだろう。

 都市再開発、高層化が進行、その間に確かに樹木の植栽も多くなり、よく見れば昆虫食や植物の種子を採餌する野鳥も少しずつ増加はしている。しかし、都会では大部分は人間の趣向や思い入れの給餌、そして廃棄物に依存する野鳥が圧倒的なのが現実であった。市川市内ではじゅん菜池東側の池や江戸川行徳橋下流妙典側がそうである。それが本来、そこにいるべき在来種を圧迫しているこの二か所では、異常とも思えるくらいの量の給餌が行われている

。  柏井調節池や完成が近い大柏川調節池、これからできる大柏川第二調節池や国分川調節池などがそうならないように、利用者の「節度」に期待したいが、不安もいっぱいある。幸いにも大町公園自然観察園は開園後、長い時間を経ているが、まだかなり自然依存型の野鳥が多く見られる。公園開設にかかわった一人として、野鳥の多彩さを残していることに「良かった」との思いと、維持に努力している関係者に感謝している。

 隅田川では早朝と午後二時以降に野鳥の動きが頂点になる。ユリカモメは早朝に川を遡上、夕刻近くに群れて海の方に向かう。その間、遊船や水上バスからの餌やりがあると船に群れることも多い。逆にセグロカモメは夕刻に川を遡上する。上流の建造物などにねぐらがあるのだろうか。
(2002年3月23日)

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真間川にズグロカモメか三月下旬にようやく都内の築地の病院から市川の自宅に戻れた。手術可能なところは除去し、不可能なところは現在、薬剤による治療を続けていて苦戦中である。度々の手術などで体力は低下しており退院後にした事は二十年来使っていた重い双眼鏡やカメラを半分以上軽い小さな品々にまず買い替えた。また、野外に出る回数も半分に減らしたが、それでも市川の野に再び出られる喜びを感じている。

 ところで三月三十一日、真間川浅間橋下流で胸がドキドキする出合いがあった。内陸域に入ってくる冬鳥のユリカモメは、真間川大柏川では例年一月末か二月にに入ると数が減り、ソメイヨシノが咲き、散る頃になると、川面の花びらを餌にと再び多く姿を見せる。ただし、じゅん菜池、国分川調節池、真間川須和田方面ではこの時期に姿を見せなくなっている。この時期のユリカモメの二割ほどが冬羽根の白い頭から夏羽根の黒い頭に、あるいは半分黒くなりかけの個体になっている。その日、浅間橋とその下流には二百羽前後のユリカモメが川面や水辺で採餌に、三十羽程度が給餌待ちで隣接地の電線、電柱で待機していた。そのなかで一羽水辺の割り石と泥洲際でユリカモメより、少し小型で頭と嘴が黒く、尾羽の白黒がユリカモメと違う個体を目撃した。「ズグロカモメ」ではと思い特徴をメモした。ズグロカモメは日本には春期夏期の個体が少数飛来しているという知識はあった。今春も谷津干潟で二羽(一月一日から三月十二日まで)確認されている。真間川での一羽は水辺の泥洲から離れず、餌やりに群れたり、川面で採餌するユリカモメに混じる事もなかった。

 早速、行徳野鳥観察舎の佐藤達夫さんに連絡。佐藤さんは「ズグロカモメは干潟の小さなカニ類を餌として好むようで、内陸の水辺にはなかなか入らないと思います。ユリカモメの若い個体のなかにはこの時期、嘴がやや黒っぽい個体もありますし……」と疑問の声の様子だった。その後も二回ほど足を向けているが、ユリカモメの頭の黒い個体だけで「ズグロカモメ」は見られていない。私もズグロカモメを今まで自分の目で見た経験はなかった。今回間違いない目撃と言い切る自信が少々揺らいできた。思い込みによる錯覚だったのか、いや「ズグロカモメ」の特徴ははっきりあったという気持ちも強く、四分六の心である。
 今春は季節が二週間以上早く推移している。ツバメもイワツバメも多く飛翔している。夏鳥のアオバズクはもう来ているであろうか。いろいろと生き物の情報を今後も提供していきたい。
(2002年4月13日)

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野生生物への過度な給餌を見直す時地形、湧水、湿地、林地とそれらに住む生物たちの次の世代まで残すことを基本に保全されている、大町公園自然観察園内で最近、気になることがあった。園内のベンチなどが置かれているコーナーでハシブトガラスが一羽、二羽と待機している光景に三月末から気がついていた。林の枝や上空でのカラスの動きはよくあるが、ベンチや自転車の車止めの支柱上でじっと止まっている姿は、いままでなかった光景である。

 やがてその理由が分かった。中年の女性が多量のパンを袋に入れて、歩きながらかなりの量のパンをちぎり、ベンチ上に置いている姿が目に入ってきた。どうもカラスはその給餌待ちで止まっているようである。鳥獣保護の市川地区の役目をしていることもあり、彼女に「餌やりの量には気を配っていただきたい」と節度を期待して話しかけたところ、彼女はそう言われた事が心外だったようで、「あんたは誰? 市の職員も何も言わないよ、私だけではないよ、ほかに六人はいる」と言いながら、パンやりを続け、観察園内に移動して行った。彼女は餌を与える事が野鳥への気配りであり、良いことをしていると思い込んでいるかのようで、不快にさせてしまったようだ。しかし、与える餌の量が多いと結果として、カラスへの餌づけになってしまう。カラスが増えると野鳥の卵や雛もカラスに食べられてしまう率が高くなる。私が心配しているのは、野生生物の暮らしとペット類へのそれを混同してしまっている事である。

 もちろんかつては大学の研究者たちが野生のニホンザルへの給餌と社会構造の調査や、野鳥保護団体のメンバーが餌台などによる野鳥への給餌を推奨してきた事も知っている。その団体が推薦しているような表現で、野鳥へのさまざまな給餌グッズが各地の店頭で販売されてきた事も知っている。しかもマスコミはいまだに野生への給餌を美談として報道する姿勢がある。一般の人が野生への給餌を良い事と思う理由は、確かにある。しかし度を過ぎた給餌は問題である。各地でニホンザルやハクチョウ、カモ、ナベヅル、マナヅルなど給餌によって数が増え過ぎ困っている地域も数多い。

 市川市内でもユリカモメへの度が過ぎた給餌が江戸川放水路や真間川や大柏川で見られる。じゅん菜池では冬期一日百人前後の餌やりと、多い人は一人で大きい袋六袋ものパンを給餌している光景もある。ペットは餌や水をやらないと死んでしまう。また、掃除もするだろう。しかし野生生物はペットではない。ユリカモメに餌を与える人はそのための水質の汚れや糞で汚れ放題の橋の欄干や歩道を掃除する気配はまったくない。野生への度の過ぎた餌やりはやめる時期になっていると思う。
(2002年4月27日)

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ツミとチョウゲンボウの動きを目撃都市内や近郊での自然環境の保全や市民への自然理解の普及活動に対して、今年度の環境省の大臣表彰をゴールデンウィークのなか、新宿御苑内で受賞しました。当欄の紙面提供や読者のみなさんの反響も長年続けることができた一助であり、感謝しております。

 同じ時期、国分川と隣接する国分川調節池でのこいのぼりフェスティバルが開催された。昨年は池の水辺からなかまで多数のこいのぼりが立てられ、管理する県の真間川改修事務所もそこまでは認めておらず、当欄でやりすぎと批判をしたことがあった。今年は関係者の努力があってか池の水辺やなかに立てられず、よかったと思う。関係者のなかには市の第一期環境市民会議のメンバーもいることから、この時期子育て中の水辺のアシ、ヒメガマ内でのオオバンやバン、カイツブリ、オオヨシキリ、セツカ、周辺の草地や裸地のカルガモ、コチドリ、ヒバリヒバリなどに配慮があったと思われる。

 ところが先日、池面に何回もレトリバー犬を放して泳がせている光景を目撃した。すぐ止めてくれたが、堤の斜面や北側の草地に狩猟犬タイプのビーグル犬やレトリバー犬など放す人も多い

。  国府台から北国分にかけては根本貴久さんを中心に熱心な野鳥観察者がいる。五月に入り、小型猛禽類のツミの繁殖行動が中国分のじゅん菜池北側の林地で行われていることを現地で教えていただいた。自然度が高い池北側の林地で、隣接する式場病院東側の林との間を往復する姿や鋭い鳴き声が身近に見られ耳に入ってくる。ツミは以前、北側の小塚山の林地でも巣づくりの例があった。最近では都内の公園の樹木での繁殖例が複数報告されている。じゅん菜池北側のツミの番いの動きを注目していきたい。

 五月十九日午後、江戸川田尻の河川敷上空で小型のハナブサであるチョウゲンボウの姿を目撃した。水管橋に止まり、やはり鋭い鳴き声をあげた後、上空でスズメを捕らえ、橋の妙典側に動いていった。今年も江戸川の橋の上や市街地で繁殖しているのだろうか。
(2002年5月25日)

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季節の話題「カルガモの親子連れ」六月一日午後二時頃、真間川東菅野の谷原橋にいた時、上流から小さな雛六羽を連れて下流に泳いでいくカルガモの親を目撃した。下流への早い流れに乗り、八幡橋、冨貴島橋を過ぎ、冨貴島小学校東側の浅間橋下流の泥洲に到着、一休みした後、引き潮で姿を見せている水辺のコンクリート際でしきりに採餌していた。やや離れた別な泥洲にはカルガモの成鳥三羽も休息しており、浅間橋上や川の東堤、西堤沿いの道から笑顔で見守る見物人が二人、三人と増えてきた。小さな雛たちとその中心にいる母親カモの姿は見る人たちに「安らぎ感」を、そして「母性」を強く感じるようで橋の欄干から身を乗り出して見る二人の四−五歳の子供と若い母親や対岸からじっと見つめている老夫婦、そして「ワァー可愛いい」と声をあげて自転車を止めて近寄る女子高校生などなごやかな光景がそこにあった。

 カルガモの営巣は陸上の草地内で行われる。雛が孵化すると母親は雛を連れて水辺に入る。真間川や大柏川の泥洲は安心して子育てできる場であることを母親は知っているようだ。私が今年のカルガモの親子連れを最初に目撃したのは、五月二十四日の大野町のパークハイツ北側のこざと北池が最初であった。六羽の小さい雛と母親がいた。南池に行っても通りかかった人から「カルガモの親子見ましたか」と別な人から二回も話しかけられた。心なごむ話題を無意識のうちに広げたいという心境がわかる。

 行徳野鳥観察舎の佐藤達夫さんの情報によると保護区内ではまだ目撃されていないが、付近の川で五月下旬から親子連れが目撃されていることと浦安市の舞浜から五月十七日に雛のみ六羽、五月二十八日にはやはり二羽の雛が保護され、観察舎に持ちこまれたとのことである。

 東京・大手町の三井物産ビル西側の人工池の元祖カルガモの親子連れについては物産不動産の前島淑子さんから情報と詳しいファクスをいただいた。今年は五月十日に六羽の雛を連れた母親が姿を見せたが、五月十八日に母ガモが姿を消し、雛の一羽が六月一日に行方不明になっているとのことである。二年前には十三羽の雛を連れた母親が五月二十四日に姿を見せたその日に、別な若い雄とともに姿を消したということがあった。子供を見捨てる母ガモの話が複数耳に入ってくる。そうであってはならないことだが−。子供に冷たい母親は見たくない。
(2002年6月8日)

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セイタカシギが大柏川へ当欄の原稿締め切りは火曜日。自然の情報が発行日の土曜日までの間に様変わりして、確認しようと現地まで行ったのに見られず、がっかりしてしまうことが往々にしてあろう。植物ではそうないが、野鳥などでは特にそういうことが多い。理科教育の面から言うと、自分の目で確かめようと行動することが非常に重要でうれしいが、翌日、「先生、行ったのにいませんでした」とがっかりした表情。その都度、野鳥は君たちの見に来るのを整列して待っていてくれないよ、三回行って一回でも目撃できれば幸運な方だよ、などと言って励ますが、がっかりした顔を見るのはつらい。

 前回のカルガモの親子の情報がまさにそれであった。そこには巣立ちしたハシボソガラスの若鳥二羽と親ガラスがいる。またハシブトガラスも複数いる。大きなウシガエルがカラスに食べられている光景もその日に目撃している。六羽のカルガモの雛は二羽の姿が見えなくなり四羽になってしまった。雛を連れ、カルガモの親は大柏川上流に移動した。大柏川奥谷原橋上流側と大柏川調節池工事現場の仮橋と越流堤北側の泥洲や水辺で暮らしている。

 そこにセイタカシギの雄の成鳥が一羽六月三日から採餌に姿を見せている。昨年は二羽いたが、今回は一羽だけである。行徳野鳥観察舎の蓮尾純子さんに連絡。そして最近の鳥獣保護区でのセイタカシギの動向の情報もいたただいた。セイタカシギは戦前、非常に希な冬鳥として日本国内で五回しか目撃記録がなかった水辺の鳥であったが、一九六〇年代から国内各地で目撃記録があり、七五年愛知県鍋田干拓地で繁殖。翌年には市内の行徳で初めて越冬。七八年京葉港埋め立て地、八〇年には行徳鳥獣保護区で繁殖が記録されている。その後、毎年保護区内での繁殖がされているが、カラスやヘビ、タヌキなどによる卵や雛の被害が多く、巣立ちできる若鳥は非常に少ない。今年は六月十三日現在、まだ営巣が確認されていないと言う。それよりもこのセイタカシギ、真間川でのカルガモ親子のように新聞発行日(二十二日)には姿を消しているのではとかなり不安である。
(2002年6月22日)

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季節を感じる木の実や花ヤマモモの木は、房州南部などの海に近い地域に生息する樹木である。潮風などに強いことから大気汚染に強いとの判断で、市川市内でも街路樹に植えられているところが多い。六月中旬から赤い実を多数つけ、樹下には落果も多い。実は生食でき、海沿いでヤマモモの自生しているところでは、子供たちが喜んで口にしている光景にたびたび接したことがある。しかし、市川市内では子供たちがヤマモモの実を口にしている光景はほとんどない。ムクドリ、ヒヨドリ、スズメなど野鳥たちが大喜びである。

 同じことはクワの実について言える。市内の冨貴島小学校の東側に良く実がつくクワの木が二本あり多数の実が実る。草色から赤色では食べられないが、黒く熟すと美味しく食べられる。クワの実のジャムも実に美味である。
 しかし、児童たちは口にしない。週に一回、野鳥の観察で真間川沿いを通るが、クワの実を口にするのがこの時期の楽しみでもある。一か月前にはカジイチゴのダイダイ色の実を楽しんだ。秋に実るムクの木やスタジイの椎の実も楽しみにしている。どうしてそれらを子供たちは口にしないのだろう。親や先生が食べられることを知らないのかもしれない。六十代、七十年代の人たちは知っているはずである。着色剤や防腐剤の入っていない安全な木の実である。味の方から季節や自然に関心をもつきっかけになる。

 ところで、長野県上田市の飯島商店では六月二十日から、クワの実のジャムを市販している。欧米では木イチゴや野生のイチゴのジャムは良くつくられ、市販もされている。クワのジャムは私の知っている限りは飯田商店のみであり、冨貴島小学校横のクワの実は、ジャムを作るほど一人占めは気がひけるので、夏の季節が来るたびに郵送で購入し、楽しんでいる。
 樹木では梅雨時を代表するアジサイの花が盛りを過ぎ、ムクゲ、ノウゼンカズラ、ネムノキなど夏七月を代表する花木が花いっぱい咲いている。朝鮮の人たちが大好きな民族の花とも言えるムクゲや花粉が目に入ると目に悪いということで、庭木として嫌われていたノウゼンカズラが最近では庭木として植えられ、美しい花が夏を実感させてくれる。戦前、朝鮮の人たちの民族意識高揚にという理由で日本国内で植えることを禁じられた時期もあったムクゲだが、それを知っている人も少なくなった。ネムノキは国分一丁目の住宅地の間にある小公園の塚田公園に、六月下旬から七月中旬にかけて美しいピンクの花を多数つける。花や実から季節を実感してみよう。
(2002年7月13日)

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林床にマヤランの花梅雨明けは関東地方などが平均日の七月二十日に、そしてその後の暑い晴天続きと、順調に本格的な夏になってきた。花木ではネムノキ、タイザンボク、ムクゲ、ノウゼンカズラと夏を代表する花が次々に見られている。セミの声はまだ、早いニイニイゼミが中心だが、アブラゼミやヒグラシの声も増えており、まさに夏本番に入ってきた。

 アブラゼミの声は、市内では七月十九日に聞いている。東京では二十二日が初鳴き確認で、平年より五日早いとされている。ヒグラシの羽化は二十日に小塚山市民の森で見ており、二十二日には夕刻六時ころには堀之内の林地ではカナカナカナと独特な声が結構、多く耳に入ってきている。

 ところで体調が悪く、歩行がきついため、野外での観察がめっきり少なくなっていたが、二十日に市内の自然情報を寄せてくれているボランティアの人たちの自然観察会が堀之内から、小塚山市民の森、じゅん菜池公園のコースで行われ、なんとか参加できた。そのなかで自然保護課の岡崎清孝さんがある林地(コレクターの存在のため特定は控えたい)の林床で、ラン科の腐生植物であるマヤランの花を紹介してくれた。十五株ほど見られ、白草色のつぼみと白花をつけており、私も久しぶりに花を見た。

 また、市川市自然環境調査会の山崎秀雄先生が小塚山市民の森でニホンミツバチの巣も紹介してくれた。いずれもきちんと下見をし、レベルの高い説明が適切に行われていた。熱心な参加者や地元で根気強い野外調査を続けている専門家がいて心強い。ただし、小塚山市民の森のニホンミツバチの巣は薬剤散布で全部殺されていた。現在、スズメバチを中心に、ハチに対して「危険」という意識が強く、森のなかの巣まで存在がわかるとニホンミツバチまで根こそぎ殺されるようだ。

 彼らはいきなり攻撃はしてこない。巣に近づき過ぎたり、触れたりすると刺される。家のなかに巣をつくられては困るが森のなかまで行っての皆殺しは、ハチにとってたまらない時代になってきた。フクロウの情報、トビの若鳥やツミの姿、そしてツミの若鳥の情報など多彩な目撃もできた。

二十二日に市内新田の赤尾美代子さんから、マンション七階のベランダに二十一日からカワウが飛べずに−と、保護の要請が県の東葛支庁を経て私のところにきた。足場の悪い高所であった。保護はしたが鋭い嘴で右手に六か所も出血を伴う手傷を負ってしまった。市の「町の相談直行便」の協力で行徳野鳥観察舎に搬送した。「町のなかの自然」にはいろいろな事がある。
(2002年7月27日)

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市内の各調節池の現状県の大柏川調節池の掘削も最終段階を迎え、池内の棚田状の段差工事・外周堤の整備や工事用通路の撤去などの作業が進んでいる。県真間川工事事務所は工事にあたり極力池面を残しつつ、と配慮しながら、作業を進めている。そのため、多くのカルガモたちやシタカシギ、複数のクサシギも姿を見せている。カワセミも足を運ぶたびに雄一羽が目撃できる。

 同じ調節池でも東側にある市の柏井調節池は水抜きが今年はされており、池内は浅いたまりと泥地化している。そのため子育てをしていたバンやカイツブリは姿を消したが、代わりになんとセイタカシギが成鳥二羽と若鳥二羽が採餌に姿を見せている。サギ類もアオヤギ、ダイサギ、コサギがこれも採餌に複数姿を見せている。池の状況が変わるとすぐにそれに適した種が姿を見せる。市内の人の出入りの少ない淡水池は六か所ぐらいしかない。管理者は、そこしか生きられない生物にも県の真間川改修事務所のように細かい配慮が必要だが、生物の対応の方も結構多彩である。

 ところで国分川調節池の方は今夏も珍しい野鳥が姿を見せている。七月からヨシゴイの成鳥も目撃しているが、国分高校の越川重治先生の観察では成鳥三羽が確認されている。繁殖をしている可能性もある。さらにササゴイの成鳥一羽も姿を見せている。ほかにアオサギ、ダイサギ、コサギ、ゴイサギも複数いるが、例年だと八月末から十月近くまで市内最大のサギ類の生息地になる。

 冬鳥のカモたちのうち少数は江戸川河口近くに残る種があるが、今夏は七月中旬までコガモの雄一羽が大柏川に、そして中旬からキンクロハジロの雄一羽が真間川浅間橋下流の東側の泥洲に姿を見せている。しかし気づく人は少ないようだ。
 さて、当欄でいままでに野生への過剰な餌やりの問題点を再三指摘してきたが、ここ数年、実に妙な事が多くある。かつて治水目的で安定した多年草などの生育で維持されている土の堤に「花ゲリラ」と称して一年生の高茎の花の種子を蒔く旧学生運動のリーダーがいた。最近故人となり、その真意は彼の断片的な話などから推察。しかし、どう善意にとっても「混乱」を起こす問題点の方が多い。

 同じように地域種のないものや外来種を増やそうとしている人たちがいる。タイリクバラタナゴや外来のメダカ類、さらに植物ではオランダガラシやホテイアオイ、ナガエツルノゲイトウ、それにケナフなど。しかも、ある程度の専門知識をもっているはずの、学校の先生が関係しているケースが多い。子供たちに外来種の種子を各地で撤布させることまでやったことがある。水の浄化や紙の原料にと目的をいっているが、ただ育てて放置というケースが多い。ケナフから紙をつくる工程は複雑で、簡単にはなかなかうまくいかない。最近では外来甲虫類を飼育し、生きた個体を放すという試みもあった。なぜ混乱化を助長してることが、自然や環境を考えることになるのだろうか。
(2002年8月10日)

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ドバトの問題点残暑が強い日ざしのなかでは野鳥への餌やりの人の数は減少している。冬から春にかけて、一時間で数十組もの人たちがいたじゅん菜池も、八月十八日の一時間ではわずか一組のみであった。餌さがしの努力もせずに餌待ちのみの鳥たち、例えばドバトなどは群れで、野や農地の畑などに餌とりに来ている。人が与える餌は、野鳥にとっては量も多く高栄養であり、そのため成鳥の死亡数も少なく、繁殖数は多い。

 ドバトは地中海沿岸からアラビア、西アジア、インドにかけての岩山や崖地に住んでいるカワラバトを飼育、食用、鳴き声鑑賞、伝書鳩などに品種改良されたものが世界各地で再び、野生化したもので、日本では伝書鳩から市街地に逸出したものが多い。駅舎、寺院、公園などで集団化しているのが普通だが、市川市内では餌やりの多いところに群れていることが多い。二百羽以上の群れが見られるのは、江戸川田尻五丁目から、妙典にかけての新行徳橋と小菅橋間の堤と市川三丁目の市川橋から根本水門にかけての堤で、いずれも餌やりが日常化している。

 次に真間川の北方橋や浅間橋で、江戸川の堤ほどではないが常時三十羽前後のドバトが餌待ちしている。江戸川では初老の男性が、真間川では中年の女性たちの餌やりが多い。浅間橋では橋のすぐ東側の人家の屋根で餌待ちが多く、糞の被害など気の毒な状態である。橋の欄干や歩道の汚れもひどい。餌やりの人たちは掃除はしない。度が過ぎる餌やり常習者を特定し、迷惑や被害を補償してもらいたい心境であろう。数が増え過ぎると生き物への悪感情も芽生えてくる。浅間橋での餌やりの女性のなかにはビニール袋いっぱいの、食パンそのものをちぎって与えている人もいる。

 秋の渡りのピークでもあり、真間川、大柏川の上流まで複数のキアシシギが入ってきている。ウミネコも複数入ってきている。浅間橋ではドバトへの餌やりに便乗のウミネコが電柱での餌待ち光景も出てきている。

 今夏はセイタカシギが成鳥二羽、若鳥二羽の計四羽が大柏川調節池や柏井調節池に入ってきている。また大野町のこざと北池ではヨシゴイが今夏も繁殖していた。現在巣立ちした若鳥四羽が見られる。バンも巣づくり、雛、若鳥、成鳥と四態が見られる。ここでは今夏はクマゼミの声もあり、妙に生き物の多彩な人工池である。
(2002年8月24日)

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夏の江戸川の野鳥の半数近くがドバトだった!八月末、国分川調節池の周囲で早くもモズの高鳴き、池面には数多くのアオサギ、ダイサギ、チュウサギ、コサギ、そして水辺のヒメガマ際でじっとしているゴイサギなどのサギ類、冬鳥のコガモやマガモの雄のエクリプス個体が姿を見せている。しかし、残念ながら池面にイヌを放し、泳がせている「愛犬家」が絶えない。泳ぎ、獲物をくわえ、戻るために品種改良されたような猟犬を飼うのが流行している。
 八月後半、江戸川河口から一五・五キロ上流の松戸市柳原水門までの区間の野鳥の動きを記録してみた。全長六〇キロの江戸川の四分の一の範囲だが、下流の市川市域では多量の餌やりで増加したドバトがなんと野鳥の数の半数近くも占めていることが数字で出てきた。

 まだ自然度の高い植生や干潟のある行徳橋周辺から下流は種類も多く、ウミネコ、カワウ、サギ類、シギ、チドリ類、さらにキアシシギ、ソリハシシギ、チュウシャクシギ、イソシギ、シロチドリなども出てくるが、それでも左岸の水管橋から東西線の間、右岸では行徳橋から新行徳橋間でドバトが多い。「熱心な給餌者」がいるためで多くは堤斜面や橋桁、人家の屋根上で待機している。江戸川大橋から上流側はドバトの占める割合が七〇%近い。生ゴミに依存度の高いカラスを加えると、この二種で八八%も占めている。

 以前から野生をペット視しての給餌を批判してきたが、最近は度が過ぎている。バターなどの高脂肪分やパンクズではなく、食パンそのものを多量に与えたり、チャボやハト用の飼料から、カラスに生肉を与えている人もいる。生米を多量に与えている光景も国分川調節池東側の春木川で、今年目撃した。
 都心の築地聖路加国際病院東側の隅田川に面している明石町河岸公園もドバト率は平均六〇%を超えている。種数平均は十種、JR総武線上流はそれと同じか、それ以上でもある。
(2002年9月14日)

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ichiyomi@jona.or.jp 市川よみうり