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アマモ移植2シーズン連続成果
市川三番瀬に「海のゆりかご」形成
三番瀬 回想「豊穣の海」

自ら株数を増やし、海の生き物のゆりかごとして順調に育つアマモ

アマモの生育状況の確認

アサリの稚貝

スズキやメバルなどの稚魚
市川市の三番瀬人工干潟造成事業の計画地に近い、旧市川漁港沖の人工干潟(行徳人工干潟)で、2シーズン目の取り組みになるNPO法人三番瀬フォーラム(安達宏之理事長)のアマモの移植が、着実に成果を収めている。初の試みで一定の成果を確認した昨シーズンに比べ、富津干潟から移植したアマモの株数の増加、葉の伸長に加え、「海の生き物のゆりかご」として、アマモ場に生息する稚魚や稚貝も、より多く確認できた。干潟の再生によって、浅瀬の生き物が戻ってくる可能性がある。
アマモの移植とモニタリングは、冬から夏にかけて年またぎで行われる。昨シーズン(2023年冬から昨年夏)は、市川市漁業協同組合が協力し、今シーズンは市漁協のほか、市川市、市魚食文化フォーラムも関わり、約20人で行われた。
今シーズンのアマモは、昨年11月1日午前に富津干潟で15~20㌢のものを採取し、翌2日午前に旧市川漁港沖に移植した。
雨天のため、船上で根を貝殻成分の粘土で固定し、干潮時、約1㍍の水位の人工干潟上に、安達さんらが潜って1本ずつ植えた。
実験区画は2㍍×5㍍の2カ所で、計300株を移植し、約半年後の今年4月29日に生育状況を確認した。
その結果、茎の分枝によって株数が7倍の2100株に増え、葉の長さも1㍍35㌢程度まで伸び、葉先には花を咲かせる花穂も観察できた。アマモはアマモ科の海草だが、成長した葉は、稲の穂先のように見える。
さらに、形成されたアマモ場を網ですくうと、スズキの稚魚が80匹ほど、また、メバル、ギンポの稚魚などのほか、アサリの稚貝まで確認できた。
昨シーズンは、23年の10月下旬に3カ所に分けて、同じく300株を富津干潟から移植したものの、11月初旬の大しけで株の多くが流された。それでも、残った90株の状態から、昨年夏前には520株まで回復。月1回のモニタリングで、スズキ、ギンポの稚魚、ヒメイカ、コウイカなどの卵が確認されている。
市川三番瀬は、「50年ほど前から潮が濁るようになり、20数年してイシガレイやアイナメなどの底魚が姿を消し、この10年くらいでアサリ漁も壊滅的になった」(市川市漁協の澤田洋一会計理事)。
三番瀬フォーラムの安達さんは「移植したアマモ場に、かつて三番瀬に生息した魚や貝が戻ってくることは大きな成果」と評価する。
そして、塩浜三番瀬公園前の市の人工干潟造成が完成したら、「市民や子供たちも参加して、みんなでアマモを移植し、魚や貝が戻ってくる感動を共有したい」と話す。
現在の市川の海では、夏になると、海が茶色く濁って光合成ができなくなり、海水温も上がるため、アマモは枯れてしまう。ただ、移植によって、冬場に稚魚が育つ「海のゆりかご」として、重要な役割を果たしている。
高度成長期の環境汚染、海岸線の埋め立てによって姿を変え、獲れる魚や貝も大きく減少した市川市の三番瀬の海。かつての海の記憶をたどり、里海の再生につなげようと、NPO法人三番瀬フォーラム(安達宏之理事長)と、環境DNA調査にも関わっている東京海洋大学が、「三番瀬 聞き取り調査レポート 回想『豊穣の海』」=写真=をまとめた。
三番瀬フォーラムの安達さんと、東京海洋大学沿岸域管理研究室の川辺みどり教授は、市川三番瀬について、「かつての埋め立て計画や、その後の再生計画で全国的に知られた海」とする一方、「都市化で周囲が埋め立てられ、幹線道路や工場地帯に囲まれ、地元でこの海を知っている人は多くない」と指摘。
東京湾に残った貴重な干潟ながら、青潮の頻発やヨシ原、アマモ場の消失、アサリに代表される漁業への影響など、「課題の多い海」と位置づけた。
そのうえで、市川市の人工干潟造成事業に際し、過去の海域の状況を知り、海の再生と街づくりを考える必要性を訴えている。
聞き取りでは、行徳の伝統ある塩づくりや海苔の養殖、埋め立て計画と白紙撤回など、「行徳地域の漁業の歴史」について解説するとともに、4人の漁師が登場し、当時の海の様子を語っている。
人工干潟造成に向け、市川市は今週から、市川漁港周辺の航路を浚渫した砂で、塩浜三番瀬公園前の計画地(幅100㍍、奥行き50㍍)の海底を覆う事業の準備に入った。
三番瀬フォーラムの安達さんは「政府も、ネイチャーポジティブ(自然再興)に政策を転換している。東京湾の変化は人為的なもので、人が傷つけてきた自然を自然の力を生かし、人が再生させていくことが求められている」と指摘している。
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