ホンネで語る教育の理想と現実
「画一」から「個別」へ オランダに学ぶ教育改革
元市川市教育長 最首 輝夫
教育先進国といわれるヨーロッパ諸国の中からオランダの教育事情を概観してみたい。筆者はオランダの学校は少し覗のぞいただけで、詳しくは取材していない。内容の殆ほとんどが著者・リヒテル直子氏から恵贈された『オランダの個別教育はなぜ成功したか』(平凡社刊)に基づいていることをお断りしておきたい。
初めに、オランダの小学校の授業風景から。子供は数人のグループを作って勉強しているが、何いつ時も席にいるとは限らない。コンピューター・読書・資料棚・ゲームなどの様々なコーナーで、それぞれが違う課題をこなす。先生は子供たちの間を静かに回りながら必要に応じてアドバイスをしたり質問に答えたりしている。よくわかっていない子供には、教室の隅に供えられた多くの教材の中から子供の学習状況に合ったものを取り出して与え、教えるのではなく子供が自力で理解するよう助力する。課題を終えた子供は、廊下やホールの明るい窓のそばなどでその時間の教科以外の追加学習に取り組んだり、パズルやゲーム感覚でできる挑戦的な課題に取り組んだりしている。
オランダでは子供を椅いす子に縛り付けておくことはない。では、何な ぜ故このような自由な雰囲気の中で、どの子供も一生懸命課題に立ち向かっているのか。それは、戦後の急速な産業発展がもたらした物質偏重の価値観に対するオランダ国民の疑問と、凄まじいばかりの市民の意識変革による。伝統的なオランダ社会の構造をも大きく揺さぶる中で、大掛かりな教育制度改革「画一から個別へ」が国民合意のもとに進められた結果である。
改革は一九六九年にK・ドールンボスが書いた『落ちこぼれへの抵抗』に始まる。彼は、落ちこぼれの問題はまさに「旧来の画一的な一斉授業が生んでいる」と指摘し、落ちこぼれのない教育「オールタナティブ教育」に学ぶべき―とした。改革の骨子は、画一授業と教科制や科目ごとの時間割の廃止、柔軟なカリキュラムを認める(総合学習)―などで、学校がより自由な教育活動を展開できるよう保証した。特に、社会的環境に恵まれない子供への配慮と、一人ひとりの能力やテンポに合わせて学びを支え励ます―などが重視された。結果、〈非競争社会〉の理念とオランダ人の誇りとしている〈教育の自由〉の原則が土台となり、子供の自立心や共同性を重視した個別教育が主流となっている。
制度的には大学まで無償。個別化に対応するための少人数学級で、授業時間は世界で最低レベル。大学(医学部を除く)まで入試はない。当然のこと学習塾もない。教科書検定もない。これがオランダの教育である。
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