折り折りのくらし83
 「小島貞二の描いたセレベス島の寅さん」

市川民話の会会員 根岸 英之

 寅(とら)さんといえば、誰もが渥美清の「男はつらいよ」の寅さんを思い浮かべることだろう。
 しかし、それよりズーッと前の、終戦直後の南方で、俘虜(ふりょ)生活を送った寅さんがいる。
 それは、戦後、市川市中山に暮らした演芸評論家・小島貞二の描いた寅さんである。

 戦前、鉱業会社に勤めていた小島は、昭和十九(一九四四)年七月から、南方のセレベス島(現・インドネシア・スラウェシ島)へ派遣社員として赴任する。翌二十(一九四五)年七月、現地召集で陸軍二等兵となるものの、終戦によりマリンプンという土地で捕虜生活を余儀なくされた。
 「寅さん」は、その収容所生活の中で生活を少しでも明るくしようと、同年十一月から収容所内の壁新聞のために描かれた四コマ漫画である。
 主人公について、小島は、次のような回想を残している。
〈おっちょこちょいだが無類の好人物。世のため人のためなら苦労をいとわない。丸顔でひげ面で、血液型にすればB型人間。四十がらみの健康なオッサンときめる。ネーミングは落語の八っつあん、熊さんの連想から『寅さん』とつけた。
 あとの話になるが、戦後、渥美清の『男はつらいよ』の寅さんが、私の設定した寅さんの人物像にそっくりなほど似ていた。〉
(小島貞二『わたしのフンドシ人生』より)

 例えば、同二十年の暮れに書かれた作品は、中央に
〈寅さんマリンプンの現実にあってしみじみと内地の年の暮を想像してみましたしみじみと日本が遠い年の暮〉
と吹き出しがあり、以下のような絵が並ぶ。
〈何年ぶりかの平和なお正月をささやかに迎える事でしょう〉
〈雪だるまも軍国調はなくなってたのしいところでノンキナ父さんなど作っています〉
〈丸公が廃止されて値段は高いですが品物は自由に買われます〉
 (丸公とは戦時中、物価高騰を防ぐために設けられた公正価格制のこと)
〈冬の寒空にふるえている気の毒な人たちもあります〉
〈つるはしの響き鍬(くわ)の音復興の息吹きは逞(たくま)しくもまた旺(さか)んです〉

 次のようなことば遊びの作品も描かれている。
〈船は早いでしょうか? さァセレベスはどうですか? 敗戦(はいせん)になって配船(はいせん)を待つ… なる様にしかならァしない やァ御苦労さん 寅さん牌戦(はいせん)と行こか あれあれ雨まで沛然(はいぜん)と降って来居ったョ〉
 こうして描かれた寅さんは、六十枚近くにのぼったが、同二十一(一九四六)年五月の復員船で持ち帰れたのは、三十二枚だけだった。

 現在、市川市文学プラザで二月二十八日まで開催中の企画展「小島貞二の世界」では、この貴重な寅さんの原画が展示されている。
 二月十四日には、同プラザ二階のベルホールで、午前中は「牛山純一と仲間たち」と題して、映像プロデューサー牛山純一を中心に制作されたスラウェシ島を始めとする東南アジアの民族を紹介する映像民族誌上映会が、午後は小島の長男でプロデューサーの小島豊美氏による「父・小島貞二を語る」と題する講演会が、それぞれ予定されている。

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